②トピックス 09 東欧は軍拡ラッシュ(その1)

 

東欧は軍拡ラッシュ(その1)

 

 東欧では今、緊張が続くウクライナ情勢とロシアの強硬姿勢を受け、国防予算を増額する国が増えています。また東欧各国は、米国、英国、ドイツ等のNATO主要国の軍部隊との合同演習の頻度を高めることで、ロシアに対する抑止効果増進に余念がありません。
 私達日本人が、先般の尖閣諸島を巡る紛糾や現在進行中の南シナ海での緊迫した状況に高い関心を持つように、東欧の人達は今、ロシアの動向にピリピリしています。

 

~ 当面の取組 ~

 ロシアが強硬な姿勢を取り続けるなか、欧州各国は合同演習の充実・強化でこれに対抗しようとしています。米国、英国、フランス、ドイツといったNATOの主要国は、地上部隊や航空部隊を東欧各国に派遣して共同訓練を実施する頻度を高め、加盟国各軍との連携強化に努めています。特に米軍は、欧州駐留部隊に加えて米本土からも機甲部隊や空挺部隊、更にはB-52、B-2等の戦略爆撃機部隊や州兵航空部隊まで動員し、数か月間のローテーションを組んで東欧各国軍部隊との合同演習を実施しています。
 米軍は演習終了後、東欧の演習場からドイツにある拠点へ戻る際、鉄道や運河・河川交通を利用するのではなく、幹線道路を走行して駐屯地まで移動しています。米軍の戦闘車両には米国旗と当地の国旗が掲げられ、車上の米軍将兵が沿道の市民に手を振る姿がメディアによって報じられました。合同演習終了後も、NATO加盟国の団結をアピールするための神経戦が繰り広げられています。

 より確かな安全保障環境を求める東欧各国は、NATO本部に対して「ロシアの脅威への抑止力を高めるため、東欧地域にも米軍等を常駐させるようにしてほしい」との要請を行っています。しかしながら、ソ連崩壊後に東欧各国がNATOに加盟する際、「旧共産圏地域には米軍等のNATO軍部隊を常駐させない」ことを条件にロシアがNATOの東方拡大を認めた経緯があることから、NATO事務総長等は東欧諸国の要請に対して慎重な姿勢を崩していません。

 米国等は、東欧諸国の懸念を払拭するために、NATOとしての有事即応能力の向上に努める方針を表明しています。具体的には、既設の緊急展開部隊( NATO response force )の規模拡大(約1.3万名から約3万名へ)を進めるとともに、新たに2日以内に展開可能な5千名規模の即応部隊( NATO's Very High Readiness Joint Task Force (VJTF) )の創設を決めました。当該新設部隊については、ドイツ、オランダ、チェコの各国軍が試験的な機動演習を実施し、約2日間で展開を完了させています。
 更に、東欧の6箇所(ポーランド、ブルガリア、ルーマニア、バルト3国)に緊急展開時の拠点を整備することも決まり、通信設備の強化や既存施設の拡大が進められています。これに加えてポーランドは、同国内に米軍機甲部隊の重装備(戦車等)を事前配備するよう米国防長官宛てに要請しています。

 

~ 国防予算の増額 ~

 東欧各国は、相次いで国防予算の増額を表明しています。ポーランドの国防予算は、現状での対GDP比は 1.95%ですが、2016年度にはNATOの標準である同2%を達成する方針です。チェコもまた、2020年までに国防予算を対GDP比で2%まで増額する方針を表明しています。東欧諸国にはIMFからの支援を受けている国もあり、自国の判断のみで国防予算を増額し難い状況にありますが、ロシアの脅威を前に難しい判断を迫られています。
 因みに、2014年に当該NATO標準を達成したのは米国(4.4%)、英国(2.4%)、ギリシャ(2.3%)及びエストニア(2%)の4か国のみでした。国防予算削減が続く米国は、昨年(2014年)英国で開催されたNATO首脳会議に先立って、NATO本部(ブリュッセル)での事前会合に出席した副大統領、国務長官及び国防長官が異口同音に「加盟各国には国防予算の増額をお願いしたい」「今次首脳会合には、外務大臣と国防大臣に加えて、財務大臣も同席されるよう希望する」とスピーチしました。