②トピックス 10 東欧は軍拡ラッシュ(その2)

 

東欧は軍拡ラッシュ(その2)

 

~ 装備の近代化 ~

 東欧各国は、増額する国防予算で軍用装備の充実・強化を図ろうとしています。ポーランドは防空ミサイルにPAC-3(レイセオン社;米国)を、次期軍用ヘリにエアバス社製を選定するなど、同盟国に気配りをしながら装備の充実を図っています。ポーランドはまた、今後導入する潜水艦に巡航ミサイルを搭載する方針を表明しており、ロシアに対する抑止力強化に余念がありません。ウクライナの大統領は自らUAEで開催された国際兵器展示会に出席し、兵器類の共同開発のパートナー国・企業探しに動いています。
 他の東欧各国も、これまで使用してきた旧ソ連製兵器から米国・西欧製の兵器に移行する方針を明確にするなど、装備の近代化に強い意欲を示しています。旧ソ連製兵器の場合、交換部品等の供給を含むメンテナンス業務をロシア企業に依存することになりますが、競争相手がいないこともあり、酷い場合はロシア系企業から通常価格の約3倍の金額を呈示されることもあるようです。
 また、東欧各国間では兵器システムの共同開発・調達を模索する動きも活発化しており、限られた資源(国防予算)を有効に活用しようとしています。当該方針を受け、欧米各国やイスラエルなどの主要メーカーが兵器類の売込みに力を入れており、国防産業界は時ならぬ「ウクライナ特需」に沸いています。

~ 兵員の確保 ~

 東欧各国はまた、兵員数の増強にも乗り出しています。チェコは、現有兵員数(16,600名)を2025年までに27,000名にまで増強する方針を示すとともに、徴兵制の復活についても議論を始めています。エストニアとラトビアは徴兵制度を維持する方針で、リトアニアは低い兵員充足率(35%程度)を改善するために19~26歳の男子(高学歴者は38歳まで)を対象とする選抜徴兵制への移行を検討しています。当該制度移行が議会で承認された場合、年間で3,000~3,500名が選抜徴兵される見通しであり、同国政府としては、最低5年間は同制度を維持する方針です。

~ 「ハイブリッド・ウォーフェア」への備え ~

 NATO加盟国が懸念するロシアの動きに「ハイブリッド・ウォーフェア」と呼ばれる戦術があります。これには、特殊部隊等を浸潤させて地域を混乱させ、その間隙を衝いて当該地域を制圧しようとする作戦も含まれており、ウクライナ東部での紛争やクリミア併合の際に多く指摘されました。また、ロシアによるメディア操作も当該戦術の一つで、ロシア系住民が多く住む東欧地域では、ロシア側が発信するロシア語放送を通じてロシア系住民への情報操作が行われている現状が懸念されています。これに関して東欧各国は、ロシア語放送の日々のニュースヘッドラインに西側の見解を流すなどの対抗措置をとっています。
 更に、ロシアが仕掛けるサイバー攻撃に関しても、国の垣根を越えた官民による統合訓練の必要性が叫ばれています。エストニアはIT立国推進を国策として掲げていますが、その一環として米国のレイセオン社と連携して「e-governance and cybersecurity」分野のリーディングカントリーを目指しています。またルーマニアは、共産圏時代に蓄積した電子情報戦技術(盗聴 等)を活かしてハッカー対策を強化しており、ウクライナ政府のサイバー対策部門強化を支援するべく専門要員をキエフへ派遣しています。
 

 本年4月の米国議会でのやりとりです。

 在欧米軍司令官:「ロシア軍の大規模演習をソーシャルメディアによる報道で知り、驚きました」「軍事情報部門の重点がイラクやアフガニスタンにシフトしていた結果と思料されます」「欧州における情報収集・分析能力の強化に投資すべきです」
 上院議員:「米国政府は情報関連に毎年700億ドルを使っているが、それで(米軍幹部が)『驚いた』とは何事か」
 在欧米軍司令官:「ロシアを友好国として包摂しようとしたこれまでの動きが当該情報不足を招致したと思料されますので、今後は東欧圏に関する情報収集・分析能力を高めるべきと考えます」

 冷戦終結後の二十有余年で定着した欧米社会のマインドが根本的に変わるまで、まだ暫く時間がかかりそうです。