②トピックス 14 未来の軍人はゲーセンで訓練


未来の軍人は「ゲーセン」で腕を磨く?


 若者達に娯楽を提供するゲームセンターには、プリクラやUFOキャッチャーなど、楽しいひと時を過ごさせてくれるアイテムが溢れています。そんなワクワクする空間の対極とも言うべき軍隊の練兵場にも、将来は「ゲーセン」が出現しそうな趨勢であることをご存じでしょうか。


~ 地上でもまるで雲の上にいるような心地 ~

 軍用機のパイロットは戦闘機等に乗り組んでミッチリ訓練を行いますが、実際に飛行機を飛ばすためには莫大な燃料を消費することになります。F-15戦闘機1機が1時間飛行する際の燃料費は約100万円と言われています。B-52などの爆撃機やC-5などの大型輸送機、それらに空中給油を行うタンカー(給油機)の消費燃料は更に莫大なものとなります。
 そこで各国空軍が取り組んでいるのが地上シミュレーター設備の充実です。実機で操縦しなければ身に付かない技術がある一方で、地上でしっかりと反復練習しておいた方が良い訓練項目も相当程度あるとされています。このため、各国にはシミュレーター設備を充実させた訓練センターを立ち上げる計画があり、各企業も様々なハード及びソフトの開発を進めています。米国とNATO加盟国の間では、F-35戦闘機導入を視野に、共同の訓練施設を設置する構想も浮上しています。
 液晶や画像処理の技術が向上していることもあり、シミュレーターに表示される風景もよりリアルになり、荒天時の対処方法等についてもある程度対応可能になると見込まれています。更に、実際に飛行している航空機と地上シミュレーターをリンクさせて訓練を実施する構想もあり、地上でもこれまで以上に充実した操縦訓練が出来るようになりそうです。


~ 予備校のサテライト教室? ~

 シミュレーターは地上部隊の訓練にも導入されつつあります。陸軍や海兵隊の隊員が多様な地理的環境(ジャングル、砂漠、市街地 等)に適切に対応するためには、様々な地形や建築物の特徴を正確に読み取りながら自身の現在位置を正確に把握する能力などが求められます。
 従来は、キャンプ(駐屯地)の教場で基礎的な座学(地形図の読み方、コンパスの使い方 等)を施した後に、演習場で実際に歩き回りながら技術を学び取らせるようにしていました。この方式で実地訓練をした場合、演習場まで隊員をトラック等で移動させるための燃料等がかかってしまいます。更に、訓練内容の習得状況が人によりバラつきがあっても、教官達がそれを把握することは困難です。
 しかし、これらの訓練をシミュレーターで実施した場合、各隊員が実際に取り組んだ訓練の状況が教官の電子端末に集約されることから、どの隊員が「苦戦」しているのかが一目瞭然となります。この場合、スムースに習得出来た隊員を苦戦している隊員のサポートに当たらせるなどして、部隊全体の錬度を効率的にアップさせることも可能になります。試験的にこの方式を導入したある米軍の部隊では、これまでは実地訓練を複数回実施する必要があった演練項目でも、シミュレーターでみっちり反復練習させた結果、1回の実地訓練で全隊員が目標水準をクリアすることが出来たそうです。


~ サバゲーも屋内で思う存分! ~

 地上部隊の隊員がその習得に苦労するスキルの一つが市街地での戦闘要領です。各国は演習場内に市街地を再現して市街戦訓練を実施していますが、多種多様なステージ(建築物等)を設定することは費用面で困難です。
 そこで各企業が開発しているのがバーチャルリアリティ技術を駆使した戦闘用シミュレーターです。特殊なゴーグルのディスプレイには様々な場面が映し出され、ガレキなどの陰に潜んでいる敵兵が攻撃してきたり、トラップ(仕掛け爆弾)が炸裂したりします。
 各隊員はセンサーを内蔵した特殊なスーツを着用し、射撃動作など訓練中にとった行動が部隊のサーバーに全て記録されます。訓練後には、各隊員がとった警戒動作や射撃結果などが精査され、要改善事項について教官等から具体的な指導が行われることになります。


 国防予算の削減が続く米国では、米海軍の作戦部長(制服組トップ)も「バーチャルリアリティ技術を活用した訓練については、これまでも航海術や沿岸警備用艦艇の訓練に導入してきたが、今後は海軍の全領域に拡げていくべきである。」とコメントしています。
 軍部隊は、最終的には実弾を用いた演習で訓練の総仕上げを行うことになりますが、1発数億円と言われる地対空ミサイルの実射などを頻繁に実施することは財政的にも困難です。このような問題を解決するためにも、シミュレーター関連設備を充実させて、多くの隊員が反復訓練を行える環境を整える手法が注目されています。
 米陸軍でも、業務用のスマートフォンやタブレット端末にIDとパスワードを入力することで訓練用アプリを使うことが出来るネットワーク環境が導入されつつあります。本年4月にチェコのプラハで開催された「国防関連訓練・教育・シミュレーション フォーラム(ITEC)」でのキーワードは「 realistic and immersive training 」でした。