②トピックス 15 デュアル・ソース
デュアル・ソース
~ 中東各国の兵器調達先の変遷 ~
ISとの戦いが続き、イランの影響力が強まりつつある中東地域では、各国が安全保障上の必要から多くの軍用装備を海外から調達しています。兵器類の調達は、民生品とは異なり、単に性能・価格だけで調達先を決めることが出来ないことから、時々の内外の情勢に影響されながら決定されてきました。同地域における兵器調達の歴史が、戦後国際政治史と符合しながら推移してきた状況を辿ってみたいと思います。
旧宗主国 → ソ連 → 米国
長らく英仏等の版図・植民地であった中東諸国は、第2次世界大戦後に独立を果たしてから暫くの間は、旧宗主国(英国、フランス 等)との人的な繋がりなどもあって欧州製の兵器を多く使用していました。その後、冷戦の進行や累次の中東戦争もあり、エジプトなど一部の国・地域においては旧ソ連製の兵器を導入する動きが目立ちました。
冷戦が終結してソ連が崩壊すると、「安かろう、悪かろう」の代名詞とされた旧ソ連製兵器は次第に脇に追いやられるようになりました。それらに代わって、エジプト等に対して積極的に軍事支援を行う米国の影響力が強くなり、各国軍の装備も次第に米国製が主流になっていきました。
米国との良好な関係が維持されている環境では、例えば米軍が使用を止めたセコハン兵器を無償若しくは低価で入手することが出来ました。米国政府は、米軍が使用を停止した兵器類をプラスチックコーティングして国内の砂漠地帯等に長期保存していますが、中東地域が有事の際などは、当該兵器類及びその交換部品等を迅速かつ安定的に供給することが可能です。
このような事情もあり、中東諸国では総じて、サウジアラビアに代表されるように米国との関係性を重視する国が多くなる傾向が強まりました。このため、米軍とのインターオペラビリティ(相互互換性)が重視された結果、各国軍の装備品の選定においては米国製兵器が多く採用されるようになりました。
米国 → 欧州
しかし、ここ最近は少々様子が変わってきているようです。具体的には、エジプトがフランス製のラファエル戦闘機やフリゲート艦の導入を決めており、サウジアラビアやオマーンも欧州各国(英国、ドイツ、イタリア、スペイン)が共同開発したユーロファイターの導入を決めています。更に、クウェートとバーレーンも同機に関心を示しており、米国製のF-15、F-16及びF/A-18はやや旗色が悪い形勢になりつつあります。
上記の傾向は、現在のオバマ政権が直接的な軍事介入に慎重な姿勢を示していることを受けて、中東各国が「米国だけに頼っていては危うい」との情勢判断に傾きつつあることが一因とも指摘されています。サウジアラビアが中心となって実施しているイエメンのシーア派への攻勢も、有志連合は米軍からの支援に過剰に依存することを避ける姿勢を滲ませるようになってきています。
このような情勢下、中東各国は過日、「アラブ連合軍部隊」(司令部;カイロ)を創設することで基本合意に達しました。当該部隊司令部の権限や開戦する場合の条件等の細部を詰める作業は続いていますが、米国への過度の依存から脱却しようとする動きは着実に進んでいるようです。
やはり「寄らば大樹の陰」?
このような中東諸国の全方位外交姿勢が進む中、新たな問題が浮上してきました。有志連合によるイラク、シリアへの空爆及びイエメンでの戦闘が長期化する中で、中東各国の空軍機が使用する精密誘導兵器が不足するようになりました。
自由落下型の爆弾は安価で短時間に量産することが可能ですが、レーザー誘導やGPS情報依拠型の精密誘導型爆弾は高価で、製造・試験等に相応の時間がかかります。このため、各国は、平時から大量の精密誘導爆弾をストックすることが出来ないことから、紛争が長期化した場合などは弾薬庫がカラッポになりかねません。
2011年のリビア内戦では、欧州各国がカダフィ政権軍に対して空爆を実施しましたが、数十年間に亘って力を蓄えてきたカダフィ政権軍の抵抗力は予想以上で、空爆は長期化を余儀なくされました。この際、各国空軍機はそれぞれ独自に開発した精密誘導爆弾を使用していたことから、兵器備蓄が底を付きそうになっても他国から弾薬類を融通してもらうことが出来ませんでした。
その点で兵力規模が大きい米軍は、平時から弾薬ストックのボリュームに余裕があることから、緊急時に同盟国、友好国に精密誘導型爆弾等を潤沢に供給することが可能です。第4次中東戦争(1973年10月)が勃発した際、その翌週にはイスラエルの飛行場を米空軍のC-5輸送機が埋め尽くしていた光景は、当時エジプト・シリアの側に付いて敵対した中東各国の人々の脳裏に焼き付いています。
超大国としての矜持か、それとも実利か
中東各国が欧州やロシアの兵器類を導入する背景には、米国内での武器輸出承認手続きの問題もあります。米国製兵器の購入を希望する国・地域からの要請があった場合、まず国務省が当該兵器の輸出の可否を審査し、その後米国議会の承認を得る必要があります。
この手続きが厳格かつ冗長であることから、中東各国等からは「紛争は今まさに起ころうとしている」「今すぐに米国製兵器が欲しいのに、米国政府な何をモタモタしているのだ」との強烈な不満が寄せられています。シビレを切らせた国の中には、人権問題や政権の正統性(クーデター等によらない非軍事政権であること等)などにはこだわらないフランス、ロシア、中国等から兵器を購入することになります。
先日中東を訪問した米空軍長官等も、各国の関係者から兵器輸出承認手続きの迅速化を強く要請されていました。最高品質の兵器類を供給可能な米国といえども、「おカネを払って頂けるなら何でもお売り致します」というような国々に対抗していくのは容易ではないようです。