②トピックス 17 紛争と疾病は「早期治療」が肝要


紛争と疾病は「早期治療」が肝要


 2014年に西アフリカで蔓延したエボラ出血熱では、欧米各国を中心とした医療チームや軍部隊等が現地に駆け付けて対応しました。その結果、疾病の発生をある程度限定された地域に封じ込めることに成功し、全世界的な大事に至ることはありませんでした。一方で、隣国の韓国で発生したMERSについては、初期段階での情報公開の遅れなどが影響し、完全終息までにかなりの時間を要しました。両事案は、初期対応の良否が事態を早期に終息させられるか、或いは長期化させてしまうのかの分かれ目であることを明瞭に示しました。


米海兵隊は「消防団」を目指す

 地域紛争も疾病と同じで、早期に収拾(抑込み)出来るか否かが事後の展開に大きく影響します。ある地域で民族間の対立や宗教関連の軋轢などによる小競り合いが発生した場合、当事国・地域の警察や軍当局が適切に対応出来れば、当該事案は早期に終息します。しかし、現地の軍や警察に相応の対処能力が欠けている場合は、ゴタゴタが長引いて緊張が高まり、やがて周辺地域の各勢力などを巻き込んで大規模な暴動・反乱などに発展する虞があります。
 そのような事態が最も懸念されているのが、政情不安定な国・地域が多いアフリカです。アフリカ中部ではイスラム過激派勢力による紛争が激化して、旧宗主国のフランスが軍部隊を派遣して各国の治安維持を支援しています。プラント襲撃事件(2013年1月;アルジェリア)で日本人他多数の死傷者が発生したことも記憶に新しいところです。また、「アラブの春」の中で混乱状態に陥ったリビアでは米国大使館等が襲撃されるなど、地域外の各国にも直接的な被害が及んでいます。
 このような状況を踏まえて、米国政府は欧州とアフリカで発生した紛争に迅速に対応するための態勢整備を進めています。具体的には、スペイン南部に海兵隊の恒常的な駐屯地を確保するとともに、ルーマニア等の東欧にも分屯地を設定して、紛争が勃発した際はそれら根拠地から海兵隊の第一陣が駆け付けられるように部隊を配置しています。それら各駐屯地にはオスプレイが配備され、完全武装した海兵隊員を迅速に輸送できるように準備が整えられています。


長期間クルーズを満喫する米海兵隊(の重量装備)

 米海兵隊の隊員と軽装備(ハンビー、対戦車ミサイル 等)についてはC-130戦術輸送機やオスプレイ等で素早く運ぶことが出来ますが、重装備(戦車、装甲車、榴弾砲 等)や諸物資(弾薬、食料、医薬品 等)については米国本土等から輸送しなければなりません。そこで米国は、それら重装備や諸物資を米海軍の大型輸送艦に搭載し、当該輸送艦を大西洋や地中海で常時航行させておくことにしました。一朝有事には、海兵隊員は航空機で、重装備等は輸送艦でそれぞれ現地に駆け付けることで、これまでより迅速に紛争に対処出来るようになります。


欧州各国も輸送艦を提供

 欧州及びアフリカの周辺海域に一定数の輸送艦を継続配備するためには、米海軍の艦船だけでは足りません。このため、米国は欧州各国から同種の艦船を提供してもらうべく調整を進めています。欧州からはオランダ、スペイン及びイタリアなどが輸送艦の提供を申し出ており、米海兵隊の隊員が各艦船に試乗・下見するなどして準備作業を進めています。
 米海軍の輸送艦と比べて、欧州各国が保有する輸送艦は内部の造りに余裕があるとされています。特に大柄な人が多いオランダの輸送艦については、試乗した米海兵隊員達には「室内も通路も広めで動きやすい」と好評でした。欧州各国はかつて、遠方に植民地を有していた事情などもあり、海軍艦船は本国と植民地の間を長期間航海する必要があったことから、乗組員が出来るだけよいコンディションを維持出来るように船内の造りを工夫してきました。非番の乗員がくつろげるようにラウンジを設けている輸送艦も多く、「乗艦するのが楽しみ」という米海兵隊員もいるようです。


(参考) 空挺部隊 ~ 地域紛争鎮定の即効薬
 世界で一番広い国土を持っていた旧ソ連は、同時に多様な少数民族が暮らす「人造国家」であり、宗教もロシア正教からイスラム教まで広範に及んでいました。このため、モスクワから遠く離れた辺境の地で反乱が起きることも珍しくはなく、現地の軍・警察による鎮圧が失敗すると事態は深刻化しました。
 現地の紛争が大規模化した場合、モスクワの中央政府は欧州地域や極東地域から応援部隊を派遣することになりますが、当該応援部隊はシベリア鉄道や河川交通を頼りに長距離を移動しなければなりませんでした。このため、応援部隊がようやく現地に到着した頃には暴動・反乱が大規模化しており、沈静化させるまでに長期間を要することになりました。
 そこでソ連政府が考えた対策は空挺部隊の創設でした。高速で現地に展開出来る空挺部隊は、紛争が燻りはじめた初期段階で反乱勢力等を鎮定する決め手と考えられました。空挺部隊は各国陸軍の精鋭部隊として一目置かれる存在ですが、旧ソ連はその空挺部隊を世界で最も早く本格的に導入して紛争の初期対応に備えました。