②トピックス 18 女性兵士の戦闘職種配属問題

 

女性兵士の戦闘職種配属問題

 軍隊で勤務する女性兵士は、女性の社会進出の象徴的な存在であることから、これまでも社会の注目を集めてきました。昨夏に米国海軍兵学校(アナポリス)を卒業して海軍士官及び海兵隊将校に任官した約千名のうち女性は二百名以上であり、米海軍の制服組ナンバー2(副作戦部長)に任命された提督も同校のOGです。米陸軍及び米空軍も同様で、後者については女性として初めて「四つ星(空軍大将)」となった軍人が昨年の人事異動で退役しています。
 米海軍は過日、潜水艦に乗務する女性下士官数十名を初めて指名しました。米空軍は現在、次期主力戦闘攻撃機F-35を操縦する女性パイロット(空軍中佐)に準備訓練を受けさせています。一方、米陸軍と同海兵隊はこれまで、女性兵士を歩兵部隊や戦車隊等の戦闘職種に配属することを内規で禁止していました。しかし、女性兵士達から「戦闘職種での勤務経験の有無によって昇進に差が生じている」との指摘もあり、慎重に検討した上で、軍当局は原則として全ての戦闘職域に女性将兵の配属を認めることにしました。


~ レンジャースクールでの選抜試験 ~

 女性兵士が戦闘職種での勤務に耐え得るかを審査する一環として、米陸軍では女性将兵が男性と全く同じ条件で特殊部隊の選抜試験に挑戦しました。挑戦した男性兵士から多くの脱落者が出るなか、昨秋、3名の女性将校(少佐(予備役)1名、大尉1名、中尉1名)が女性として初めてレンジャースクールの正規課程を修了しました。

 米陸軍の精鋭部隊の一つにレンジャー部隊があります。同部隊のルーツは第2次世界大戦中ともいわれ、敵中深く侵入して重要軍事施設を破壊することなどを主な任務にしています。当該任務を達成するため、所属隊員には困難な環境を克服して冷静かつ果断に判断・行動する能力が求められます。このため、同部隊の隊員になるためには厳しい選抜基準をクリアした上で、苛烈を極める訓練をやり抜いて高度な戦闘能力を身に付けたことが認定されなければなりません。
 レンジャー部隊の他に、グリーンベレーやデルタフォース、海軍のネイビーシールズ及び海兵隊のレコン(偵察部隊)なども同様ですが、これら精鋭部隊の一員になるためには原隊の指揮官(上官)から推薦される必要があります。厳しい訓練に早々に脱落しかねない兵士をレンジャースクール等に送り込んだとあっては部隊指揮官としての見識を問われかねないことから、各部隊は日頃の勤務状況等から体力・精神力・知力が優れていると認定された兵士のみを選抜して送り込むことになります。米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)の歌の中に「 One hundred men will test today, but only three win a Green Beret.♪ 」とあるように、精鋭中の精鋭のみが軍服に特殊部隊徽章を着けることを許されています。

 上記の特殊部隊訓練課程の選抜試験に挑戦した女性将校達も、原隊の上官からお墨付きをもらって送り出された優秀なソルジャーです。将来、特殊部隊等の戦闘職種に配属されるかについては不透明ながら、過酷な訓練を乗り越えた貴重な戦力として、軍部隊での活躍が期待されています。

 

~ 抵抗も根強く ~

 女性兵士の戦闘職種配属については、軍関係者及びそのOBの間で抵抗感が強いことも事実です。陸軍士官学校OBで、イラクで歩兵大隊を率いた経歴を持つ下院議員は、初めて女性がレンジャースクールの課程をクリアしたことを疑問視して、米陸軍に対して「レンジャースクールは彼女達の訓練成績の全詳細を公開せよ」との要求を突き付けています。
 これに対して陸軍士官学校の女性候補生達が、情報公開制度に基づいて当該下院議員のレンジャースクール課程での訓練成績の公開を求めました。「陸軍士官学校には『嘘をつくな』との訓示があり、レンジャースクールにも同様の指導指針があると聞く」「下院議員は、女性将校達にレンジャー課程をクリアさせるためにレンジャースクールが(成績のかさ上げ等の)不適切な対応をしたとでも言うのか」と、ウエストポイントの女性候補生達は反発しています。

 米海兵隊は、約半年間をかけて女性兵士のパフォーマンスを検証しました。具体的には、「女性兵士と男性兵士の混成チーム」と「男性だけのチーム」に全く同じ戦闘訓練等を実施して、それぞれの詳しい成績を比較・分析しました。この結果、女性兵士達の訓練成績は全ての項目で男性兵士達のスコアを下回り、更に、受傷率は男性兵士達の約2倍になることが判明しました。これを踏まえて、米海兵隊は戦闘職種への女性兵士の配属を見送るべきとの見解を海軍長官及び国防長官に上申しました。

 

~ 支援職域部隊の懸念 ~

 米陸軍及び同海兵隊による検討の結果、適性試験をクリアした女性兵士が戦闘部隊に配属されることになった場合、その影響は他の多くの部隊に及ぶとみられています。具体的には、これまで女性兵士が多く配属されてきた後方支援部門(整備、補給、教育訓練部門 等)は、定員削減への対応を迫られる中、能力の高い女性兵士を投入することで複雑化しかつ迅速な対応が求められる部隊業務を処理してきました。
 各軍は、男性志願者の成績下位者を不採用にして、その枠に優秀な女性志願者を充当してきました。具体的には、これまで男性兵士5名で対応していた部門に優秀な女性兵士1~2名を配属することで、同じ業務を3~4名で処理する体制を構築してきました。今後、優秀な女性兵士を戦闘職域にも配属することになると、これまで後方支援部門を支えてきた女性兵士のリソースが手薄になる可能性があります。
 「それなら、女性兵士の採用を増やせばいい」という意見があるかもしれません。実際、米海軍長官は「今後、海兵隊の新規入隊者については、四分の一を女性にする。この四分の一という基準は、上限( ceiling )ではなく下限( floor )であると認識してもらいたい。」と明言しています。
 軍隊が戦闘を旨とする組織である以上、男性兵士の比率を無制限に下げることには自ずと限界があります。転換期を迎えつつある米軍がどのような最終判断を下すのか、注目されます。

 

~ ゴーサイン ~

 カーター国防長官は本年(2016年)4月、米軍当局の抵抗を抑える形で、陸海空軍及び海兵隊の全ての戦闘職種に女性将兵を配属可能とする方針を決定しました。
 米陸軍では、レンジャースクールの正規課程をクリアした女性大尉が、憲兵隊から歩兵部隊に異動(職種転換)するために歩兵学校での基礎訓練課程を受けています。また、下士官・兵士クラスの女性将兵についても、既に300名近くが歩兵・機甲・砲兵等の戦闘職種での勤務に必要な基礎訓練を終了しています。更に、5月に陸軍士官学校(ウエストポイント)を卒業した新任女性少尉22名が戦闘職種に配属されています。
 米海兵隊も、既に女性将校の戦闘部隊配属が内定し、今後配属される女性下士官・兵士を受け入れる態勢準備にあたらせています。また海兵隊司令部は、女性下士官・兵士に対して、戦闘職種への転属を希望する際の要件(体力検定基準、妊娠していないこと 等)を告知し、志願者の募集・基礎訓練に着手しています。
 米海軍は、既に戦闘職域への女性将兵の配属を進めていましたが、今後はネイビーシールズについても配属可能としました。ただし、第1回目の募集に志願した女性将兵はいませんでした。
 米空軍は、前線付近から上空の友軍機に目標情報を教える職種や、撃墜されて緊急脱出した友軍パイロットを救出するコンバットレスキュー班等への女性将兵の配属を決めています。

 今後、米軍において女性将兵の戦闘職種への配属が進んでいくものと思われます。このような変化を受けて、これまで米国人男性(18~25歳)に限定されていた選抜徴兵制の対象を、同年齢の女性にまで拡げるべきとの議論も起こっています。

 以上のように、本件に関しては様々な議論や検証作業を経て、軍隊勤務におけるジェンダーフリーの徹底を図る方針が示されました。米軍関係者及びそのOBの間では、「軍隊経験のない、勿論、イラクやアフガニスタンで弾の下をくぐったこともないお偉いさん達が、エアコンが効いたワシントンのお部屋で、コーヒーでも飲みながら決めたんだろうよ。」との不満が依然として残っているようです。そのような男性将兵等のボヤキが杞憂に終わるのか、それとも「世界最強」を自負する米軍が溶解する端緒になるのか、それは神のみぞ知ることなのかもしれません。