②トレンディ バックナンバー
2018.5.22
「トレンディ」 第12号
○米海軍 ~ 米海軍不適切饗応事件
米海軍では所謂「ファットレオナルド事件」と呼ばれる不適切饗応事案に関する軍法会議が行われています。同事件では、マレーシアに拠点を置く海事サービス会社が米艦隊の東南アジア地域寄港時の各種役務(入校手続代行・調整、食料品等の調達・納入、乗員の福利厚生環境整備 等)を受注するために米海軍関係者に様々な便宜供与を続けていたことが明らかになっています。
米海軍特別捜査局による捜査や軍法会議を通じて、同社が米海軍関係者に現金を含む多額の利益供与(宿泊費・食費の負担、贈答品 等)が行われていたことが判明しました。軍法会議は現在も続いていますが、最終的には数十名の米軍士官・下士官が然るべき処分を受ける見通しです。
○ミサイル防衛
北朝鮮の核ミサイル開発が進捗していることから、国防総省・米軍はミサイル防衛装備の強化を重点課題に押し上げています。同省はアラスカに配備している弾道弾迎撃ミサイルを増強するために特別予算を要求し、連邦議会もこれを承認しています。更に、弾道弾警戒システムを充実強化するため、洋上配備型レーダー及び宇宙空間配備型センサーの開発にも予算を計上しています。
東欧(ポーランド、ルーマニア)とトルコでは弾道弾迎撃に必要なアセット(イージスアショア、X-バンドレーダー 等)の配備が進み、日本にも同様の装備が導入される流れが固まりつつあります。
国防総省・米軍はまた、高エネルギー兵器(レーザー兵器)の開発にも力を入れています。かつてはジャンボジェット機に大型のレーザー発射装置を搭載し、弾道弾が発射された直後のブースト段階を狙う構想が練られていました。同構想は最終的には中止されましたが、その後の技術水準の向上もあり、安全保障問題の専門家らは「STARウォーズはもはや映画の世界だけのものではない」とコメントし始めています。
2018.5.14
「トレンディ」 第11号
○全般
米陸軍、同海兵隊の武器類に関する報道が目に付きました。米陸軍と同海兵隊は現在、5.56ミリ弾を発射する自動小銃、軽機関銃を使っていますが、ロシアや中国が5.56ミリ弾の貫通を防ぐ防弾装備を開発して国内外に売り込んでいることが判明しています。これを受けて米軍当局は、より強力な破壊力(貫通力)と長射程射撃を可能にする小火器類の導入を検討しています。具体的には、かつて使用していた7.62ミリ弾より小型の6.5ミリ弾が有力候補となっています。
中東関係では、「イラク軍の成長で米空軍等の負担軽減」という記事がありました。イラクにおける対IS戦闘では、空爆は専ら米軍等有志国空軍が担ってきましたが、イラク空軍のF-16戦闘攻撃機とこれを地上で管制するイラク軍戦術航空管制官がその任務を引き継ぎつつあります。米国本土の空軍基地で育成されたそれらパイロットや管制官達が一本立ちしてきたことにより、各国軍は今後、その航空戦力をシリア、アフガニスタン、アフリカ地域での過激派武装勢力の掃討作戦にシフトさせる方針です。
○米陸軍
米陸軍は、かつては欧州や韓国に師団、旅団規模の部隊を駐留させて同盟国防衛態勢を維持していました。冷戦終結後は、ロシアの軍事的脅威が大幅に低下したことから、特にNATO加盟国から機甲師団等が順次米本国に引き揚げていきました。この結果、冷戦時には約26万名規模であった在欧米軍も大幅に縮小され、地上戦闘部隊はドイツ(歩兵旅団)とイタリア(空挺旅団)の2個旅団基幹の態勢となっています。米陸軍はこの間、部隊編成の主軸を師団(兵員;2万名規模)から旅団(同;1万名規模)にシフトさせました。
しかし2014年のウクライナ紛争以降、米国はNATOの同盟国とりわけ東欧各国を安心させるため、米国本土に拠点を置く旅団をローテーション(9ヶ月間)で欧州各地に派遣する運用を開始しました。現在、同様に韓国とクウェートにも旅団規模の米陸軍部隊がローテーションで派遣されており、派遣指名された旅団は駐留先の同盟国軍部隊等と合同演習を行っています。
陸軍部隊を常駐させる場合、軍関係者の家族も駐留先に同行することになるため、福利厚生面をフォローする軍当局と関係者家族の負担は大きくなります。一方で、長期間ローテーション派遣の場合は家族を米国本土に残していくことから、家族の生活環境への影響を極小化することが出来ます。今後は、この部隊のローテーション派遣が米陸軍の運用の主流になりそうです。
○寡占化懸念
国防関連産業においても企業間合併は積極的に行われていますが、国防総省関係者はこの動きに神経質になっています。米軍装備を高度化するためには、複数の事業者が受注を目指して切磋琢磨する競争環境が不可欠です。一方で、米国等では国防関連事業者が他社を吸収合併する事案が続いており、ロッキード・マーチン社がヘリコプター製造事業者であるシコルスキー社を買収した際は、国防長官他の主要幹部が懸念を示しました。
米軍用装備を調達する場合、国防総省はまず基本的なコンセプト、要求諸元等を公示して各社にオファーを求めます。当該事業の受注を目指す事業者は、関連分野の技術に強い他社と提携するなどしてチーム編成を行い、同チームとしての提案をペンタゴンに示します。国防総省・米軍の担当官はそれらのオファーを比較して上位2社(チーム)を選び、試作製品の開発・製造を発注します。米軍の運用担当官他は納入された試作兵器類を演習場で徹底的に試験して、要求諸元とともに戦闘での過酷な環境での耐性等をチェックします。当該試験の結果を踏まえて最終受注事業者が決まり、本格的な量産化に移行することになります。
兵器システムの優位性を維持するためには、有力事業者が社運を賭けた開発・投資を競う環境が不可欠です。欧州では水上艦艇の共同開発に向けた動きが加速しつつあり、米海軍の次期フリゲート艦の設計業務に関しては米欧事業者の連合体制が組まれています。兵器開発の競争環境を維持するためには、国境を越えた事業者間連携が必要な時代になりつつあるようです。
2018.5.7
「トレンディ」 第10号
○全般
中東地域関連では、米軍他の有志連合国軍によるイラクにおける対IS戦闘が終了したことを記念する式典が現地バグダッドで挙行され、各派遣部隊が隊旗を畳むセレモニーが行われました。ただし、シリア、アフガニスタン、アフリカ地域でのイスラム過激派武装勢力に対する掃討作戦は続いており、各国軍幹部は「次の仕事場に移るだけ」とコメントしています。
航空関係では、F-35戦闘攻撃機に関する記事が多く見られました。同機種の主契約者であるロッキード・マーチン社が大規模な正式契約に漕ぎ着けるなど、製造が本格化する環境が整いつつあります。今後は、同機種の維持費を如何に抑えるかに関係者の関心が移っていくものとみられますが、そのカギを握るのがF-35を支える各種ソフトウェアの開発です。戦闘支援用ソフトに加えて、整備・補給業務支援用ソフトの開発も現在進行形です。各国の次期主力戦闘機選定事業が進むなか、国防総省、ロッキード・マーチン社としては同機種が開発途上であるという弱みを「伸展性」という強みに変えていきたい意向のようです。
○米空軍 ~ パイロット、整備員不足
米陸軍航空隊の時代から「Nothing will stop the U. S. Air Force♪」と高らかに歌い上げてきた米空軍がピンチです。総定員約2万名のパイロット枠の約1割(2,000名規模)が慢性的に不足しており、特に戦闘機パイロットの不足が深刻化しています。
米空軍の戦闘機パイロットは、空軍士官学校や各大学の予備役将校訓練課程(ROTC)を経て操縦要員として育成されます。そして、一定の義務年限を勤め上げると、そのまま空軍に残るのか、或いは民間のエアラインに移籍するかを選択することになります。
現在、世界の航空業界はパイロット不足が深刻化しています。先進国、新興国の航空会社が路線・便数拡大を図っている一方で、新たに途上国も航空旅客輸送業務に着手し始めています。一人前の旅客機機長を育てるには15年以上かかるとも言われ、先々の航空旅客需要予測データ等からもパイロット不足が予測されています。
米空軍は戦闘機パイロット等を確保するため、新規訓練課程の定員枠を拡大するとともに、現役パイロットへの勤務延長特別手当の増額を連邦議会に予算請求しています。更に、米空軍幹部と民間航空事業者幹部による会合を開き、空軍の現状、事情等を説明しながら、過度の人材引き抜きを行わないよう要請しています。
○自殺防止 ~ 医療用大麻
米国、カナダ等で大麻使用の解禁が進んでいますが、退役軍人向けの医療分野でも医療用大麻の可否が議論されています。最近の調査では退役米軍人の自殺者数は一日約22人であることが判っており、その主な原因はPTSD(Post Traumatic Stress Disorder:心的外傷後ストレス障害)、脳損傷由来精神疾患等と推認されています。医療関係者は、その治療に大麻成分を活用出来ないかを研究したいとして連邦政府や州政府に働きかけています。しかし、連邦政府は退役軍人省が所管する医療機関の関係者については当該研究への参加を禁止しています。
2018.4.30
「トレンディ」 第9号
○全般
ベルリン航空ショーが開催され、同地に乗り込んだ各国の政府・企業幹部による発言に関する報道が目立ちました。ご当地のドイツは次世代の「主力戦闘攻撃機」「大型輸送ヘリ」調達事業というビッグチケットを控えているだけに、ロッキード・マーチン社、ボーイング社、エアバス社等の主要国防関連事業者幹部が活発に情報発信していました。
前者(戦闘攻撃機)に関しては、高度なステルス性能を誇るF-35(ロッキード・マーチン社)に対して、ドイツとフランスによる戦闘機共同開発事業を主張する勢力が「F-35は空飛ぶブラックボックスであり、システムの重要な部分を全て米国に握られてしまう」と欧州各国に呼び掛けています。
米軍関係では、陸軍の将来像に関するシンポジウムが開催され、ペンタゴン幹部から様々な方針が発信されました。要約すると「優先6課題(長射程精密誘導兵器 等)の着実な前進」「オバマ前政権における国防予算抑制策で傷んだ部隊・装備の欠損補充」「欧州、朝鮮半島における防空能力強化」などです。全体的には、「最新兵器への開発投資は少し控えて、現在の有事即応態勢を建て直そう」という論調が強いように思われます。
○米海軍
圧倒的な攻撃力を誇る米海軍空母打撃群では、空母のエスコートが主任務の巡洋艦や駆逐艦は専ら防空や対潜水艦戦に重点をおいて装備の近代化や訓練を重ねてきました。しかし、ロシア海軍の復活や中国海軍の近代化という事態を踏まえて、米海軍は水上艦船の対艦攻撃能力を強化する方針を固めました。現在配備を進めている沿岸戦闘艦についても、長射程の対艦ミサイルを追加的に配備する方向で検討が進んでいます。
米海軍等が警戒するイスラム過激派勢力などは、イラン製とみられる対艦巡航ミサイルを入手して実際に米艦船等への攻撃に使用しています。米海軍は、このような高度攻撃兵器によるゲリラ戦的運用に備えるべく、高エネルギー(レーザー)兵器等の開発を加速するなど、艦艇の防御システムの改良にも投資を増やす方針です。
○衛星打上事業
かつてはULA(ロッキード・マーチン社、ボーイング社等によるJV)が独占的に受注していた公用・軍用衛星の打上げ事業も、2014年のウクライナ紛争でロシア製ロケットエンジンの使用が困難になったことから、競争原理を導入する動きが強まりました。これに商機を見いだしたのがSpace-X社(イーロン・マスクCEO)で、リユース可能なロケットシステムの開発に成功し、米国政府・軍からの受注実績を伸ばしています。更にOrbital ATK社は自社の主力ロケットを改名(「Next Generation Launch system『OmegA』」)し、ブースト第3段階に対応させるためにAerojet Rocketdyne社製エンジンRL10を採用して態勢を整えています。
このように、米軍用衛星の打上事業ではSpaceX社(Falcon Heavy)、United Launch Alliance(Vulcan rocket)及びOrbital ATK社(Next Generation Launch system「OmegA」)が米空軍のEvolved Expendable Launch Vehicle(EELV)事業に挑む構造になりました。ウクライナ紛争の副産物として、米軍関連衛星市場において競争環境が醸成されることになりました。
2018.4.23
「トレンディ」 第8号
○女性将兵の戦闘職域配属等
2016年から本格化した女性将兵の戦闘職域配属は、陸軍や海兵隊の歩兵、機甲、砲兵部隊への補職が秒読み段階となっています。男性将兵と同じ訓練課程をクリアした将校、下士官を配属する師団も内定しています。米海軍特殊部隊(ネイビーシールズ)にも女性2名(士官、下士官各1名)が挑戦することも決まり、いよいよ男性将兵だけの「聖域」は消滅しようとしています。
一方で米海兵隊では、戦闘職域に配属されて継続勤務となっている女性将兵が少人数(二桁代)に留まっていることも報じられています。米海軍でも、試験的に若手女性士官十数名を潜水艦部隊に配置したものの、継続勤務を希望したのは四分の一程度に留まりました。
米軍内でのセクハラ問題は依然深刻であると報じられています。海兵隊ではSNS上に現役、OGの女性の不適切画像多数が掲載されたことが問題となり、内規が厳格化されました。米軍における女性将兵活用の試みは、まだ暫く手探りが続きそうです。
○米海兵隊
米海兵隊というと、米韓合同軍事演習のテレビ映像等にあるように、海岸にランディングした水陸両用戦闘車両から完全武装した隊員達が飛び出してきて小銃を構えるイメージがあります。この「本業」ともいえるオペレーションの他に、米海兵隊には在外公館の警備という重要な任務があります。
東京の赤坂見附、虎ノ門、霞ヶ関界隈では時々、頭側部をキレイに刈り上げた、見るからに屈強な外国人がランニングに励んでいます。在京米国大使館の警備を担当する海兵隊員である可能性があります。
米海兵隊は近年、欧州(スペイン、ルーマニア 等)に拠点を確保し、定期的に駐留先の軍部隊と合同演習を実施しています。この動きには、欧州とアフリカ北部における緊急事態(テロ、武装蜂起 等)に対応する際の拠点確保という側面があります。在リビア米国大使など4名が殺害されたベンガジ事件(2012.9.12)を受け、米国政府は在外公館を警備する海兵隊員の増員を検討しています。
○次期高等練習機
現有のT-38高等練習機の後継機種を調達する事業が進んでいます。第5世代型軍用機であるF-35戦闘攻撃機を操縦するパイロットを育成するため、統合通信機能等を経験させるための新機能が求められています。
本件に関しては、米国の国防関連事業者(ロッキード・マーチン社、ボーイング社 等)と各国メーカー(サーブ社(スウェーデン)、KAI社(韓国) 等)が提携しながら選考レースが進んでいます。米空軍だけでも350機の購入が見込まれ、更に各国空軍の採用事業にも大きな影響を与えることが想定されることから熾烈な「空中戦」が繰り広げられています。特に、空軍力強化で戦闘機や戦闘攻撃機等をハイペースで導入している中東各国においては、パイロット養成用の練習機のニーズも高まっていくことから、応札各社としてはどうしても米空軍からの受注を勝ち取りたいところです。
2018.4.16
「トレンディ」 第7号
○航空機事故
米軍で航空機事故が続いています。専門紙は2013年から2017年にかけての航空機事故を分析し「陸軍は微減、海軍と海兵隊は増加傾向、空軍は変化なし」と総括しています。
航空機事故が頻発している背景に関して、米軍関係者はオバマ前政権時の国防予算抑制策の影響を指摘しています。2011年に始まった国防予算の強制的抑制により「主力装備はキャンセル困難 → 訓練時間削減、整備・補給要員の削減、予備部品調達遅延等 → 整備、飛行可能な航空機が漸減」の(負の)スパイラルに陥ったとの見方が軍関係者の間で共有されています。米軍幹部は「予算・人員等が圧縮される一方で、イラク、アフガニスタン、シリア等での実任務ボリュームが高止まりしている状況では、米軍将兵のオーバーワークというリスク(時限爆弾)は解消されようがない」と警鐘を鳴らしています。
事故の頻度が高いのかに関して、識者は「米軍の規模、実任務の多寡等を総合的に分析する必要がある」とのコメントを出しています。一方で識者は、「戦闘任務の増大、訓練環境の悪化、事故の頻発などのネガティブな要素が現役パイロットの流出を加速している」とも指摘しています。
○米陸軍
国防総省・米軍が今後の施策の中心に据えつつある概念「Multi Domain」では、従来の陸上、海上・海中、航空に宇宙空間とサイバー空間を加えた上で、それらが複雑に絡み合いながら戦闘様相を形成していくものと考えられています。
米陸軍は、この新たな概念に対応する運用方式、装備等の在り方を検討する組織として「Futures Command」を設置しました。同司令部は新型装備を迅速に開発、実用化するための新組織で、優先6課題(「Long-Range Precision Fires」「Next-Generation Combat Vehicle」「Future Vertical Lift」「Network」「Air and missile defense」「Soldier lethality」)等に対応する専担部門を擁しています。
新型装備を調達して部隊に配備するまでには長期間を要するものです。米陸軍は現在、シリコンバレー等でスピード感をもって事業を推進するIT企業との連携を深めています。これは、単に最先端技術の獲得を意図したものではなく、その迅速かつ果断な経営判断等のスキルを国防総省・米軍に導入することを目指しているようです。
○PAC-3 等
米軍等の主力防空システムであるPAC-3に関しては、無人機等の新たな脅威に対応するために、迎撃精度を高めるための改良が加えられています。その「眼」となるレーダーは360度全周対応が可能なタイプが開発されており、ポーランド軍などが導入を希望しています。他の東欧諸国も米軍との互換性を重視して、同防空システムの導入に傾きつつあります。日本、ドイツ等が採用している同システムは、ミサイル本体に加えてレーダー、射撃管制装置等に改良を加えることにより、これからも西側の防空体制の中核を担っていくことになりそうです。
2018.4.9
「トレンディ」 第6号
○米国と中東地域
イラク;2001年のイラク戦争以降、中東地域での紛争に関与し続けている米国が「足抜け」のタイミングを計りかねて彷徨しているようです。
イラクではIS掃討作戦が一段落し、同国に駐留する米軍はその任務をイラク軍等への訓練支援にシフトしています。しかしながら、先のイラク戦争後、同国内の統治体制や治安維持態勢等が整わない段階で米軍等が戦闘部隊を撤収させた結果、社会が混乱してISの台頭を許してしまいました。
ベトナム戦争と並ぶ「やらずもがなの戦争」(五百籏頭真 前防衛大学校長)に足を突っ込んだ米国の苦悩が続いています。
シリア;「さっさと引き揚げたい」というトランプ大統領と、「撤収計画は無い」「米軍の増派を検討中」とコメントするペンタゴン関係者の間でやや混乱している模様です。
アフガニスタン;米軍等が根気よく育ててきた治安部隊や警察組織が力を付けてきたことから、米中央軍司令部等は「ここでトドメの一押し」として戦闘・訓練支援を担当する米軍部隊の追加派遣を検討している模様です。イラクでの失敗に懲りて、米国政府としては「アフガニスタン政府・軍が独り立ち出来るまで根気強く支える」方針ですが、「米国ファースト」で海外での厄介事から手を引きたい米国保守勢力に支えられた現政権の意向は不透明です。
○米軍特殊部隊
米陸軍特殊部隊に人材を供給しているレンジャー訓練課程では、士官学校や大学を出て部隊勤務を経験した若手将校から約400名を選抜し、数ヶ月間の過酷な訓練を課します。コースを終了出来るのは全体の四分の一程度と言われています。
グリーンベレーは、レンジャー訓練課程修了者を中心にした候補者から要員を選別しています。この訓練課程に入るための選抜もまた厳しいもので、「One hundred men will test today, but only three win a green beret♪」と歌われています。
映画やドラマでも有名な米海軍のネイビーシールズは、隊員候補者を6ヶ月間の訓練課程で篩にかけます。その訓練は「grueling(ヘトヘトに疲れさせる)」なものとして有名で、やはり最後まで残れるのは数分の一程度のようです。
グリーンベレー、デルタフォース、ネイビーシールズ等で構成される米軍特殊作戦軍が今、アップアップの状態にあるようです。ISやタリバンといった武装勢力やテロリストとの戦いにおいて、特殊部隊は中心的な役割を果たしています。米軍の特殊部隊員達は現在、世界100カ国以上に派遣されて合同演習や訓練指導などに従事しています。しかし、厳しい選抜をくぐり抜けてきた強者しか特殊部隊員になれないことから、特殊作戦軍は限られた人的資源をフル回転させながら対応している状況です。このため、特殊部隊員が海外に派遣される期間が慢性的に長期化し、米国本土で家族と過ごす時間が少なくなっていることなどが問題になっています。
○次期フリゲート艦
米海軍は、設計業務を国際競争入札方式として、実績のある欧州の造船事業者にも門戸を開きました。国防総省は「米国企業と欧州企業のコラボ」を想定しているようで、より高性能な艦船をリーズナブルな価格で調達することを狙っています。
一方、艦船の建造自体は米国の造船事業者が担当する方針に変更はないようです。造船業界の特殊性として、「艦船建造能力を有する限られた事業者が少ない発注を分け合わざるをえない」事情があります。米海軍は、例えば主要造船2事業者に水陸両用艦と補助系艦船の受注を競わせ、より良いオファーを出した事業者に利幅の大きい水陸両用艦船の建造を発注し、同艦を逃したもう一つの事業者は補助系艦船の建造を受注するようにアレンジしています。
2018.4.2
「トレンディ」 第5号
○米国:トランスジェンダー対応
オバマ前政権は、軍務においても性的多様性を尊重すべきとしてトランスジェンダー該当者等への差別的取扱いを禁止しました。機密漏洩罪で収監されていた受刑者(マニング元一等兵)の性転換手術も公費負担で実施しています。
その後、トランプ政権はトランスジェンダー該当者の新規採用に一定の条件を設定する方針を打ち出しました。即ち、新規入隊者の該当者には「入隊時までに性転換手術を終えており、術後18ヶ月間の経過観察において新たに獲得した性について不適合が認められないこと」が求められることになりました。
国防予算が抑制されてきた米軍においては、従来以上に「有事即応性(レディネス)」と「戦闘能力(リーサリティ)」が求められています。入隊後にトランスジェンダー該当者が「性転換手術 → 経過観察」となった場合、処置経費等の公費負担に加えて、海外派遣に対応困難な米軍将兵が増加することになります。
国防総省・米軍当局は、軍務遂行と米国社会の価値観におけるバランスという難しい問題に直面しています。
○米空軍
現有のA-10攻撃機の「後釜」として期待されているF-35A戦闘攻撃機に関して、対地攻撃力に係る運用試験が予定されています。A-10飛行隊のパイロットと整備員をF-35飛行隊にシフトさせたい米空軍としては「ようやくここまで来たか」と安堵しているようです。一方で、米陸軍と同海兵隊の関係者には湾岸戦争から今日に至るまで自分達を力強くサポートしてくれてきたA-10のファンも多く、連邦議会に議席を占める退役軍人とも連携しての「A-10を消すな」運動が続いています。2018年度国防予算では、同機種の主翼部を交換するための予算が確保され、2030年まで継続運用する目処が立っています。
次期空中給油機(KC-46A)に関しては、引き続き苦戦が続いているようです。本件は「コスト固定型契約」ですが、累次のトラブル発生で開発スケジュール遅れ、追加費用も発生していることから、ボーイング社には厳しい状況が続いています。同社としては、給油用パイプを制御するために最新技術を導入する一方で、連邦航空局の安全基準をクリアするための作業を積み上げる必要があり、カレンダーを気にしながらの日々が続いています。
○高エネルギー兵器
所謂「レーザー兵器」ですが、その高い命中精度と破壊力に着目して研究・開発が続けられています。初期設備投資の大きさという課題はあるものの、「一撃で1ドル以下」「電源がある限り撃ち放題」という低コスト性は魅力です。更に、砲弾やミサイルと異なり、爆薬や推進薬といった危険物を艦内にストックしておく必要が無いことも同兵器システムの魅力の一つです。
かつて大型旅客機の機首に発射装置を取り付け、発射直後の段階(ブーストフェーズ)にある弾道弾を破壊する構想もありました。現在は、戦闘機が(自機に向かって)飛来する地対空・空対空ミサイルから自己防御するための兵器システムが検討されています。
艦艇の場合、大型の発電装置を搭載することが可能であることから、より遠距離のターゲットを狙えるレーザー兵器の導入が検討されています。
地上部隊に関しては、ドローン等の新たな脅威を無力化するための有効な装備としてレーザー兵器の開発が進められています。
米国では、産官学が一体となったレーザー関連技術の開発が進められており、関係者は「映画のスターウォーズの世界は、もはや夢物語ではない」とコメントしています。
2018.3.26
「トレンディ」 第4号
○サイバー戦・情報セキュリティ
米軍は現在、6,000名規模のサイバー戦要員を確保するべく軍部隊内外から人材を集めています。連邦議会は「情報処理技術等の専門的能力がある若者を確保出来るように、新規入隊者選抜の体力検定基準を一部緩和してはどうか」と勧告しています。
国防総省は、下士官の勤務年限に関して、従来は20年勤務した後に除隊するのが慣例であったところ、サイバー戦専門官に関しては勤務延伸と特別手当を用意するなどして人材の引き留めに努めています。IT系の専門技術者は官民問わず引く手あまたであることから、米軍当局は人材獲得競争という厳しい戦いに直面しています。
一方で、質実剛健を旨とする軍務と最先端テクノロジー系カルチャーの相性の難しさも顕在化しています。米軍部隊にサイバー関連のシビリアンを帯同させる構想に関して、一部の軍人は「俺、髪の毛が紫色の兄ちゃんと一緒に仕事するの?」(米海兵隊総司令官ロバート・ネラー海兵隊大将)と当惑しているようです。
○米海軍
昨年(2017年)の洋上衝突事故が尾を引いています。当該事件により米海軍の幹部人事にも影響が出ています。海軍当局は「海軍士官たるもの、もっと洋上での勤務経験を積むべき」として、勤務ローテーションの見直しも検討しているようです。
その一方で米海軍当局は、トランプ政権が「355隻艦隊構想」という威勢のいい政策を打ち出していることに戸惑っているようです。最新技術を盛り込むことで空母等の各艦船の単価が上昇し、新規建造は容易ではありません。既存艦艇を修理し、古い装備を取り替えて何とか頭数を揃えるのにヒーヒー言っている状況に、米海軍幹部らは「前政権の国防予算抑制策で傷んだ艦隊を建て直すのが先」と、冷ややかな目でワシントンを見つめているようです。
○空中指揮管制機
次期空中指揮管制機に関して米空軍が悩んでいます。
空中指揮管制機は、高感度センサーや通信機器類を搭載し、地上、海上及び空中の状況を把握するとともに、当該情報を元に友軍部隊に指令を発信する役割を担っています。従来の機種は大型旅客機をベースにしており、関連機材を置くためのスペースにも余裕があり、オペレーターが長時間勤務し易い環境を確保することが可能でした。
米空軍は当初、従来通り大型旅客機に最新の電子・通信装置等を搭載する方式を考えていましたが、無人機を活用する方式という新たなオプションが登場し、一旦仕切り直すことにした模様です。空中指揮管制機は、湾岸戦争以降の戦闘で地上及び空中に展開する部隊を統制する上で重要な役割を果たしてきた軍用機です。暫くは現有の機体を補修、アップグレードしながら運用を続けることになりそうです。
2018.3.19
「トレンディ」 第3号
○米国:極寒地での訓練を強化する米軍
米軍は近年、極寒地(ノルウェー、アラスカ州
等)での訓練に力を入れています。米海兵隊は昨年(2017年)から300名規模の部隊をノルウェーに派遣し、合同訓練を継続しています。また、米陸海空軍海兵隊と沿岸警備隊は約1,500名を動員してアラスカで冬季演習を実施しています。
この一連の動きにはロシアの動向が影響しています。地球温暖化が一因と推認される環境の変化により、北極海の結氷面積が減少していることを受けて、関係各国(米国、ロシア、カナダ
等)が同海域の活用(地下資源開発、北極海航路開設 等)に動き出しています。
ロシアは冷戦終結後、高緯度地域に配備していた軍部隊を大幅に縮小し、軍事施設を順次閉鎖してきました。しかし近年、ロシア国防省は軍部隊(機械化戦闘部隊、防空監視部隊
等)の再配備及びその施設整備を積極的に進めています。
更に、2014年のウクライナ紛争以降のロシアの強硬姿勢顕在化により北欧地域における安全保障環境が厳しさを増していることも、米軍等が寒冷地訓練を強化する動機となっているようです。
○米海兵隊
陸軍と同様に、「電子戦」及び「サイバー戦」への対応に追われています。更に、敵対勢力(ロシア、中国
等)が対艦攻撃用ミサイル等を充実・強化していることから、「これまでのように海岸線の近くまで強襲揚陸艦等を寄せて水陸両用戦闘車両を発進させる方法は難しい」として、精密誘導兵器で敵防御部隊を殲滅する戦法を研究しています。「第2次世界大戦のDデイ(ノルマンディー上陸作戦;1944.6.6)みたいなイメージで戦争していたら、上陸地点にアプローチする前に艦船もろとも沈められてしまう」(米海兵隊総司令官)。
米海兵隊は近年、個々人の携行装備の軽量化にも力を入れています。装備開発担当の司令官(海兵隊中将)が現行の標準装備を背負い、戦闘部隊の将兵とともに行軍しながら「海兵隊の装具は重くて困るね」とリポートし、「軽量化するためのアイデアを待っているよ」と改善提案を促しています。携行糧食(MRE(Meal, Ready-To-Eat)の高カロリー化で各レトルトパックの軽量化を図るなど、将兵の体力減耗を回避するための取組が続いています。
○ドローン
無人機が実際の戦闘に使われるケースが目立ち始め、各国政府・軍当局が警戒を強めています。ウクライナ、シリア、イラク等では、従来の敵情偵察に留まること無く、爆薬を装着したドローンで攻撃を仕掛けている状況が報告されています。今後は更に、廉価で操作が容易な無数のドローンを集中的に投入する手法が開発されることも予見されています。
これに対抗するべく、ハンディタイプのドローン撃退用装置が開発され、米空軍は基地警備用に導入しています。米陸軍等は、警戒すべき空からの脅威として攻撃機、弾道弾、巡航ミサイル、ロケット砲弾等に加えてドローンを列記するようになりました。併せて、軍事施設等周辺でのドローンの使用を規制する法令整備も進められています。
今や街の家電量販店において数万円程度で購入可能なドローンですが、これを撃退するための新装備は相応の価格であることから、各国軍は戦闘における悩ましいコスパ問題に直面しています。
2018.3.12
「トレンディ」 第2号
○米国、欧州:鉄鋼・アルミ関税問題とNATOの国防予算(負担)問題
米国が鉄鋼、アルミの関税を大幅に引き上げる方針であることは世界中を巻き込んだ騒動になっていますが、これを米国の安全保障政策にリンクさせる動きも出ています。米国のSteve Mnuchin財務長官は「鉄鋼、アルミの関税率アップの免除を望むNATO加盟国は然るべき国防予算を確保すべき」と発言しています。トランプ政権はこれまで、NATOの同盟国に対して「対GDP比2%以上の国防予算」を確保するよう求め続けてきました。因みに、2017年で当該共通目標を達成した国は米国、英国、ギリシャ、エストニア、ルーマニア、ポーランドに留まっています。国防予算が1.2%程度に留まっているドイツは「国防予算増額だけが欧州、世界の安全保障環境を規定するわけではない」と主張していますが、米国内の「どうして米国の納税者がドイツを守るための米軍に血税を注がなければいけないのだ」という声が高まりつつあることも事実です
○米陸軍
最近目立つのが「電子戦」「サイバー戦」対応です。2014年以降のウクライナ紛争においてロシア軍の電子戦能力の高さが判明しており、サイバー攻撃問題は周知のとおりです。米軍関係者は「露助(ロシア軍)もバカじゃないね」「冷戦後も我々(米軍等)の戦い方をしっかり研究して、弱点を衝く戦法と装備を開発していたようだ」と感嘆しています。米陸軍内では、GPSを利用する精密誘導兵器が電磁的妨害により使えない場面を想定し、「新たな誘導方式に必要な技術開発に投資すべき」との意見が強くなっています。過日着任した米陸軍Training and Doctrine Command司令官Stephen
Townsend陸軍大将は「ネットワーク化は今後の戦争を左右する最重要課題であり、大都市部での戦闘への備えと共に、新たな課題として挑む」と発言しています。
○米国:米軍人の配偶者が国外退去の危機
現政権の入国審査厳格化政策により、米軍関係者の配偶者が米国内に留まれないケースが問題になっています。海外勤務の機会が多い米軍関係者の場合、派遣先で知り合った異性と結婚する人も多く、本国帰還に際しては一緒に移動することになります。しかし、入国審査が厳格化したことに伴い、パートナーの出身地によっては米国への入国や滞在が認められないケースが目立つようになりました。2~3年で転勤することが多い米軍関係者には、異動そのものが少なからぬ負担となっていますが、更に伴侶の入国、定住においても負担が生じることになりそうです。
2018.3.5
「トレンディ」 第1号
スタートから暫くは、これまで掲載してきた様々な内容を整理しながら進めていきたいと思います。第1回では、米国の国防予算、米軍の諸課題等について概観してみます。
○2018~2019年度国防予算
2018年度分は既に5ヶ月が経過してしまい、連邦議会では「2019年度分と一体化して最適な予算配分を検討してはどうか」という意見が出ています。国防予算、公共事業等を推す共和党と移民政策関連法令に拘る民主党の駆け引きが長引き、暫定予算措置でかろうじて政府機関の閉鎖(シャットダウン)を回避する状況が続いています。
○「対戦相手」がグレードアップする米軍
脅威の想定をISやタリバン等の武装勢力からロシアや中国といった「本格派」にシフトしつつある米軍は、よりタフな戦いに備えるべく「筋力アップ」に注力しています。「精密誘導兵器が使い放題」「目標に面白いように当る」「負傷者が発生しても、友軍のヘリが戦闘地域まですぐに来てくれる」といった恵まれた戦闘環境はもはや期待出来ません。電波妨害あり、サイバー攻撃あり、戦時国際法違反行為ありと、何でもありの敵対勢力(露中
等)が相手となる戦闘では、湾岸戦争以降のような「ワンサイドゲーム」は想定出来ません。新たな「対戦相手」に備え、最先端技術を駆使した新型装備を開発するべく、国防総省はシリコンバレー等で活躍する企業や大学との連携を一層深めるべく動き始めています。
○米軍の海外での準戦闘活動
イラク
~ イラクでは、IS掃討作戦が一段落し、米軍等有志連合国軍の任務がイラク治安部隊への戦闘側面支援(空爆、砲撃支援 等)から訓練支援にシフトしています。米軍は、訓練指導に特化した「訓練支援教導団」を今後6個旅団創設する計画で、同教導団はイラクにも派遣されるとみられています。
アフガニスタン
~ アフガニスタンには今春、第1訓練支援教導団が派遣される予定です。アフガニスタン治安部隊を独り立ちさせることが米国等有志連合国の最優先課題で、米国政府・軍は軍用ヘリや軽攻撃機などの無償供与と並行して、近接航空支援を要請する戦術航空管制官などの養成に力を入れています。「南ベトナム政府軍が殆ど機能せず、米軍が全面的に介入せざるを得なくなったベトナム戦争の二の舞はごめんだ」と、ワシントンはアフガニスタンからの「脚抜け」に向けて着々と布石を打っています。これと並行して米国政府は、パキスタンへの軍事援助を凍結しながら、「タリバン等に聖域を提供している」として同国政府に然るべき対応(過激派掃討作戦の実施等)を要請しています。
アフリカ ~IS系の過激派勢力と戦う各国政府軍・警察部隊への訓練支援を行うため、アフリカ各地に米軍将兵が派遣されています。現時点での派遣兵力規模は不詳ですが、最盛期には5千名規模にまで拡大していたと伝えられています。先日はニジェールで待ち伏せ攻撃を受けた米軍特殊部隊員4名が戦死するなど、危険を伴う任務が続いています。