③ジェネラル 課題

【課題】
 貴方は米国大統領の補佐官(安全保障担当)です。イラクで続くISとの戦いについて、上下両院の共和党議員達から「大統領の対応は手緩(てぬる)い。米軍機等によるISへの空爆の精度を上げるため、米空軍の爆撃誘導員を現地に派遣して、前線に展開するイラク軍部隊に帯同させるべきではないか。」との意見が上がっています。先の議会選挙での民主党の敗北もあり、この件について大統領は「陸軍や海兵隊の戦闘部隊はともかく、少人数の爆撃誘導員ならいいかな」などと悩んでいます。貴官は大統領にどのように進言すべきでしょうか。


【標準解答案】

 貴官は大統領に対して「爆撃誘導員を派遣してはなりません。」と進言すべきでしょう。

 確かに、イラク軍からは「我々(イラク軍部隊)が敵(IS部隊)を発見して米軍に通報しても、現状ではタイムラグが大きく、実際に攻撃機が飛来して投弾するまでに時間が掛かりすぎる。」との声が上がっています。米国議会の主張も、より効果的な航空支援を必要とするイラク軍の意向を踏まえたものと言えます。しかしながら、実際に爆撃誘導員をイラクの前線に派遣した場合、様々な問題が発生することが予想されます。
 派遣された米空軍の爆撃誘導員は、ISと戦うイラク軍地上部隊とともに最前線で行動し、IS側の動向を子細に観察して上空で待機する有志連合国軍機にターゲットの位置を連絡することになります。爆撃誘導員は敵軍(IS)から近い場所で活動することから、激戦・混戦になった場合などに死傷したり、場合によっては捕虜になったりすることも想定する必要があります。
 捕虜になった米軍の爆撃誘導員が斬首のような残忍な方法で殺害された場合、米軍将兵の士気に及ぼす影響は決して小さくないものと思料されます。更に、米国内の世論が激高して、外交政策に制御困難なバイアスが掛かることも懸念されます。このため、米国政府・軍当局としては、陸軍や海兵隊の戦闘部隊に爆撃誘導員の護衛をさせることも検討しなければならなくなります。更に、前線に派遣される当該「爆撃誘導チーム」を援護するため、米軍の戦車隊や砲兵隊を後方地域に配備することも検討しなければならなくなります。
 
 1960年代前半のインドシナ半島においては、社会主義を掲げて旧ソ連及び中国の支援を受ける北ベトナム(ベトナム民主共和国)と米国他の支援を受ける南ベトナム(ベトナム共和国)が紛争状態にありました。東南アジアが次々と赤化(共産化)する所謂「ドミノ理論」を懸念していた米国は、南ベトナム政府を支えるべく、様々な支援を打ち出していました。その一環として、南ベトナムの4か所に米空軍用の基地を設営して戦闘爆撃機部隊を派遣し、北ベトナム軍やベトコン(南ベトナム解放戦線)と戦う南ベトナム政府軍を空から支援していました。
 しかし、地上で戦う南ベトナム政府軍部隊が極めて脆弱であったため、米空軍基地は次第にベトコンによるロケット弾攻撃を受けるようになりました。そこで米国政府は、米陸軍及び海兵隊の戦闘部隊を派遣して米空軍基地周辺を警備させることにしました。しかし、派遣された米軍地上部隊はあくまでも南ベトナム政府軍部隊を補完するための小規模部隊であり、ベトコンによる空軍基地への奇襲攻撃を阻止するのは困難でした。このため、米軍地上部隊の規模とパトロール範囲がズルズルと拡大していき、やがてその延長で、米軍は本格的に地上戦に関与するようになりました。

 米国はかつて、ベトナムにおいてだらしない友邦軍(南ベトナム政府軍)を助けるために地上部隊を本格的に投入せざるを得なくなり、やがて紛争の泥沼に引きずり込まれるという愚策を犯しました。イラクにおいても、爆撃誘導員若しくは爆撃誘導チームを派遣するという米国の対応を見たイラク軍が、米軍地上部隊の更なる派遣を引き出すために、故意にISに負けるようなことをやらないとも限りません。貴官は、イラクにおいて「ベトナム戦争の二の舞」だけは避けるべきことを大統領に進言する必要があります。