②トピックス 01 南大西洋波高し

南大西洋波高し!?

 

~ フォークランド諸島 ~

 南大西洋というと、日本から見て地球の裏側ということもあり、日頃あまり話題になりませんが、その南大西洋が少々キナ臭いことになっています。アルゼンチンといえば、メッシ選手の母国、タンゴ、農畜産業が盛んな国といったイメージですが、このところ英国との間で不穏な空気が漂い始めています。

 ご存じのとおり両国は、1982年にフォークランド諸島(アルゼンチン名:マルビナス諸島)を巡って戦い、その後もその領有権を巡って対立が続いています。英国は、紛争以前は海兵隊員約50名を常駐させるに留めていましたが、現在は兵員約1,200名、地対空ミサイル部隊、海軍艦艇及び戦闘機4機を常駐させています。

 

~ 旧式戦闘機の「後釜」探し ~

 アルゼンチン空軍は今日まで、厳しい経済状況もあって、フォークランド紛争時に使用していたA4スカイホーク戦闘機やミラージュ戦闘機という旧式かつ老朽化した軍用機を使い続けてきました。しかしながら、整備費がかさむなど、それら旧式機の運用にも限界が見えてきたことから、アルゼンチン空軍は新たな戦闘機を購入する方針を固めました。

 安全保障環境が比較的安定している中南米では、米空軍等が装備するF-15、F-16や欧州各国空軍のユーロファイターのようなハイスペック(=高価格)な戦闘機はそれほど必要ではありません。そこでアルゼンチン空軍が選んだのがサーブ社(スウェーデン)のグリペン戦闘機でした。同機については、既にブラジルが購入及びライセンス生産を決めていることから、アルゼンチン空軍用の機体をブラジルの工場で製造してもらう算段でした。

 スウェーデンも、ブラジルも、アルゼンチンも、みんながハッピーになれるプロジェクトが実現するかに思われました。

 

~ 英国の横槍で振出しに ~

 しかし、その計画に英国から「待った!」が掛かりました。グリペン戦闘機の心臓部を支える主要電子機器の多くを英国のメーカーが供給していることから、同機の第3国への売却には英国の同意が必要とされていたのです。NATO各国や主要な先進国も、英国への配慮からアルゼンチンへの最新鋭戦闘機の売却には慎重な姿勢をとっていました。

 グリペン戦闘機の調達が困難になったアルゼンチン空軍は次善の策を模索しました。そこでアルゼンチン政府が辿り着いたのが、ロシアから中古の戦闘攻撃機(Su-24)12機をリースするというアイデアでした。ウクライナ問題による経済制裁や原油価格低迷によるルーブル安の影響か、リース代金はなんと「小麦と肉類」と報じられました。アルゼンチン政府はこの報道を否定していますが、いつまでも時代遅れの戦闘機で頑張るわけにもいかず、中国製戦闘機の共同生産案なども含めて、暫く模索の日々が続きそうです。

 

~ 余波 ~

 アルゼンチンのこの動きに英国は敏感に反応しました。英国国防省からは「今後調達する最新の防空ミサイルシステムについては、最初にフォークランド諸島に配備される」との公式発表がありました。また、昨年秋に進水した空母「クイーンエリザベスⅡ」(基準排水量 65,000トン)についても稼働開始に向けて準備が進められています。同空母に搭載される予定のF-35B戦闘機(垂直離着陸タイプ)についても、英海軍及び同空軍等への納入に向けて米国での調整が進んでいます。

 今春に総選挙を控える英国では、厳しい財政事情もあって国防予算の削減圧力が強まっているようです。一方で英国は、ウクライナ情勢等を踏まえて米国から国防予算の増額を促されているNATO加盟国としての立場もあります。フォークランド諸島を巡る情勢の変化もあり、英国の新政権は難しい政策決定を迫られることになりそうです。