②トピックス 03 また冷戦?
また冷戦?
かつての冷戦は、ベルリンの壁の崩壊(1989年)などを経て1991年のソ連邦崩壊で終結しましたが、今次のウクライナ問題で欧州は「第2次冷戦」の様相を呈してきました。米国を中心とする主要国が対ロシア経済制裁を強化する状況下で、欧州各国はロシアの動向に神経を尖らせています。
~ 「鉄のカーテン」が消えて ~
冷戦が終結して以降、西欧諸国にとってロシアは、軍事的脅威としての度合いが低下する一方で、冷戦後の世界をマネジメントする重要なパートナーとなりました(ロシアはG8の一員になりました。)。今日、在欧米陸軍の機甲師団は全て米本土に引き揚げており、ドイツは徴兵制から兵役志願制に移行しつつあります。欧州各国とロシアの経済的結びつきも深まり、ロシアが供給する天然ガスは西欧諸国には必要不可欠なエネルギー源になるとともに、ロシアは西欧各国にとって重要な市場(輸出先)となりました。
~ 「マドモアゼル」がロシアにお嫁入り ~
欧露間の取引については兵器類も例外ではなく、主要国はロシア軍への武器類の提供を徐々に解禁していきました。
フランスはロシアとの間で、ミストラル級強襲揚陸艦2隻のロシアへの売却契約(約16億ドル)を締結しました(ロシア側が希望すれば、更に2隻を追加発注することも契約に含まれています。)。当該強襲揚陸艦は、米海軍も次期揚陸艦の有力候補にリストアップしていると噂される程の「強襲揚陸艦の傑作」です。今回の取引では、露仏両国の造船事業者が業務を受注出来るように、艦橋が含まれる艦首部分はフランスの造船所で、艦尾部分はロシアの造船所でそれぞれ建造され、後者がフランスまで運ばれてドッキングしました。
しかし、ウクライナ情勢が悪化し、NATO加盟国(特に東欧諸国)が懸念を表面するなか、フランス政府は同艦の引渡しのタイミングを慎重に探っています。昨年(2014年)秋にはロシア海軍の将兵約400名が訪仏し、フランスの軍事会社から基本訓練を受けました。この際、ロシア側は「将兵を運ぶロシア海軍の艦船が故障したため、乗員のフランスへの派遣を延期する」とするなど、フランスの苦しい立場に配慮するような姿勢も見せていました。
今後、同艦にはロシア海軍用の兵器や運用システムなどが組み込まれ、約2年間の錬成訓練を経て実働態勢に入ることになります。なお、ロシア海軍は2隻の揚陸艦にそれぞれ「ウラジオストック」「セバストポリ」と命名する予定ですが、後者についてはなんとも因果な感じがします。
~ ドイツの「マイスター」がロシア軍の師匠に? ~
かつてロシアと激しい戦火を交えたドイツも、ラインメタル社がロシア国内に年間約3万名の将兵の訓練が可能な施設を建設する契約を結んでいました(現在は中断)。冷戦期には「鉄のカーテンを越えてなだれ込んでくる赤い戦車隊(旧ソ連軍)」に怯えていたドイツが、今ではロシア軍将兵のレベルアップに寄与する仕事を請け負う時代になりました。
ロシアは、ウクライナ騒動の初期にクリミア半島を電撃併合することに成功しましたが、その立役者がロシア軍の特殊部隊であったと言われています。そのロシア軍特殊部隊の隊員が腕を磨くための軍事訓練施設の建設をドイツが請負うことに、米国議会等から懸念が示されています。
ドイツは、先の大戦前の時期、日本との間で三国同盟締結に動く状況下にあっても、ギリギリまで中国の蒋介石軍にドイツ製兵器の供給と軍事顧問(失業中のドイツ軍将校達)の派遣を続けていました。またドイツは、戦間期(WWⅠ ~ WWⅡ)の再軍備において、旧ソ連と秘密協定(ラッパロ条約)を結んでシベリア等に兵器開発施設を置かせてもらうことで軍用機や戦車等の開発を進め、その見返りにドイツ軍将校が旧ソ連軍を指導していました。第2次世界大戦の独ソ戦(1941.6 ~ 1945.5)は、実はドイツ軍対ソ連軍という「師弟対決」でもありました。ドイツが強いのはサッカーだけではないようです。
~ 米軍もロシア軍事企業のお得意様 ~
昨今の情勢を受けて、欧米からのロシア向けの武器・軍事サービスの提供はペンディングされていますが、その影響は米国にも及んでいます。
米空軍が宇宙空間に展開している多数の偵察衛星については、米国を代表する国防企業(ロッキード・マーチン社、ボーイング社 他)がタッグを組んだ事業体(ULA)が打上げを独占的に受注しています。そして、そのULAが運用するロケットのエンジン( RD-180 )はロシアの宇宙・軍事企業が製造しており、当該企業のトップはプーチン露大統領の右腕とされる人物です。
同社長は自身のブログで「米国が対露制裁を続けるなら、ロケットエンジンの提供に影響が出かねない」と米国を牽制する書き込みをしていました。しかし、同企業のHPに「米軍にロケットエンジンは売らない」とのメッセージが掲載されることはなく、昨年秋には予定通り、米空軍・ULA側にロシア製ロケットエンジンが納入されました。
このドタバタに懲りた米国政府は、米国製ロケットエンジンの開発を検討していますが、ULAやスペースX社が同分野への参入に意欲を示しています。スペースⅩ社は、ULAによる偵察衛星打上事業の独占に異を唱えて米空軍を提訴(後日に和解)していました。なお、同社のCEOイーロン・マスク氏(43)については、昨秋来日して自社の電気自動車をPRした姿が記憶に新しいことと思います。