②トピックス 04 テロとの戦いは熱砂と密林を飲み込んで続く

テロとの戦いは熱砂と密林を飲み込んで続く

 

~ 対テロ作戦・・・メインは「訓練支援」と「武器等装備品の提供」 ~

 米国がイニシアチブをとる有志連合とIS等のイスラム過激派勢力との戦いについては、イラク、シリアで主要拠点の攻防戦があった時だけ、思い出したように報道されるような感じになっています。また、欧米各国による当該紛争への関与については、空母から発進する戦闘機やピンポイント爆撃の映像がビジュアルとしてインパクトが強いせいか、有志連合によるISへの空爆作戦に注目が集まる傾向があります。

 しかし、欧米各国による対IS活動の中核は、あくまでも米軍等によるイラク軍やクルド人部隊等への軍事訓練支援や装備品の供与です。イラクやアフガニスタンでの戦いで数千人の戦死者・行方不明者を出した米国は、国内の厭戦気分もあり、「空爆はやるけれど、地上戦は自分達の力で完遂してもらいたい」という姿勢で、これは他の有志連合の国々も同様です。長期化するISとの戦いを見据えて、これまで関与に慎重な構えを見せていたニュージーランドやスウェーデンなども軍の訓練教官の派遣を決めています。

 

~ アフリカで訓練指導にあたる米軍の「先生」が急増中 ~

 シリアやイラクでの紛争に隠れて目立ちませんが、アフリカでもテロとの戦いは激しさを増しています。アフリカ各国とイスラム過激派勢力との戦いについては、女子学生集団拉致(ナイジェリア)や大型ショッグモール襲撃(ケニア)など、センセーショナルな事件が伝えられています。

 イスラム過激派勢力がアフリカ各地で浸透している背景には、経済格差の拡大や政治腐敗による社会の不安定化に加えて、人権問題等で国際社会から経済制裁を受け、十分な軍事援助を受けられなかった国が少なくない事情があります。このため、経済・社会基盤が脆弱なアフリカ各国は、国境線を越えて広範囲に活動する反政府勢力に対抗するため、欧米各国のイニシアチブの下に連携を模索しています。

 具体的な動きとしては、テロの拡散を懸念する欧米各国は、アフリカにおいても各国軍部隊への訓練支援強化に本腰を入れつつあります。米軍の場合、アフリカに派遣されている陸軍・海兵隊の教官は、数年前は数百名規模でしたが、ここ最近は全体で5千名を超えるまでに増員されています。

 欧米各国とアフリカ諸国が連携を深めるなか、本年2月には米国とアフリカ各国(35か国)の軍幹部がセネガルで会合を開催し、対テロ作戦における連携強化を確認しています。更に同月には、チャドをホスト国とする合同演習(28か国:兵員1,300名参加)が実施され、アフリカ各国の軍とNATO加盟国軍が戦術確認、通信連絡、物資融通、人道支援業務など広範な演練に汗を流しました。

 

~ 「ヘビーローテーション」・・・米国の負担は続く ~

 長期化するテロとの戦いは、米国の財政にも少なからぬ負担となっています。昨年(2014年)8月からの対IS空爆では、米軍は一日平均で約8百万ドル(約9億6千万円)を支出しています。因みに、2015年度予算では、国防予算の本予算( Base Budget )とは別建ての特別会計(OCO:Overseas Contingency Operations )として約780億ドルが計上されています。

 空爆の一端を担う米海軍の空母機動部隊については、東地中海やペルシャ湾への派遣期間が長期化していることから、米海軍の新たな頭痛のタネになりつつあります。米海軍は現在11隻の原子力空母を保有し、ドック入りしている1隻を除く10隻を「対IS戦闘や各地域での哨戒任務」、「新規配属乗員の訓練」及び「乗員の休養・艦船の整備」に振り分けながらローテーションを組んでいます。しかし、対IS作戦が長期化することにより、このローテーション・プランが次第にタイトになりつつあります。

 少子化の進行に加え、長期間の洋上勤務が若者に敬遠される昨今、各国の海軍は志願者の確保や退職・転職希望者の引留めに苦労しています。米海軍も、家族と離れて長期間の洋上勤務に就く乗員の負担軽減を図るため、洋上勤務手当の増額や新型艦艇の省力化と併せて、艦隊勤務のローテーションを組み換える措置を取り始めています。それでも人手が不足する艦船については、長期の洋上勤務から戻ったばかりの独身の乗員に「すまないが、2週間後に出港する○○艦に乗り組んでくれ」という所謂「クロスデッキ」で何とかしのいでいる状況です。米海軍にとっては、暫く苦しい状況が続くことになりそうです。