②トピックス 05 兵器輸出が好調なフランス
兵器輸出が好調なフランス
このところ、フランスの兵器輸出が絶好調です。
2月にはエジプトにラファエル戦闘機24機と多目的フリゲート艦6隻を売却することが決まりました。当該取引の背景には、事実上の軍事クーデターで成立した現エジプト政権に対して米国が軍事支援を凍結していた事情があります。
またエジプトは、ISとの戦いに加えて、昨年(2014年)8月にスエズ運河拡張計画を発表しており、同国政府としては警備体制の強化を急ぐ必要に迫られていました。新型多目的フリゲート艦に関しては、フランス政府は「同型艦を建造・導入中のフランス海軍への引き渡し順位を調整することも含めてエジプトに協力する」旨を表明しています。
更にフランス政府は、アラブの春に伴う混乱等から観光収入が減って財政状況が苦しいエジプトへの配慮から、当該兵器に係る支払を借款によることを認め、フランス金融機関との調整にも積極的に動きました。フランスの官民挙げての売込みが奏功した事案でした。
4月にはインドとの間でラファエル戦闘機の売買契約(総数128機 完成機の納入は36機 残りは技術供与を伴うライセンス生産)が整い、訪仏中のモジ印首相とオランド仏大統領の間で合意が確認されました。当該案件では当初、インド空軍の総調達機数(128機)のうち18機を完成機としてフランス企業(ダッソー社)が納入し、残りをインド国内でライセンス生産する方向で調整が進められていました。完成機の納入機数を増やすことでインド側が譲歩した形ですが、フランスからの技術供与を自国の航空機産業育成のテコにしたいインドの将来戦略が窺えます。
インドでは、贈収賄疑義事件の影響や官僚機構の非効率などが影響して、多目的戦闘機の導入が5年以上遅れていました。その一方で、中国空軍は着実に新鋭戦闘機の配備を進めるとともに、インドの隣国であるパキスタン(軍)との協力関係を一層進めるなど、インドを取巻く安全保障環境は変化してきました。インドを取巻く諸々の事情が、今回の印仏「頂上決着」を促したとみられています。
フランスへの順風は続きます。
4月末にはカタールへのラファエル戦闘機24機及び搭載ミサイル(MBDS社製)の売却が決まりました。当該契約には操縦者36名、整備員約100名の訓練も含まれており、契約総額は71億ドルと見られています。更に、オプションとして同戦闘機12機の追加納入も認められており、ホランド仏大統領が湾岸諸国首脳会談に招待された機会に契約調印式が挙行されました。
ラファエル戦闘機についてはアラブ首長国連邦、クウェート及びマレーシア等でも売込みが続いており、同戦闘機の生産機数は今後とも積み上がっていきそうです。
フランス製兵器に対する需要はこれに止まりません。
政情不安に苦しむレバノンに対しては、サウジアラビアが軍事支援(総額30億ドル)を決めており、戦闘装甲車両、警備艇、多目的ヘリ等の兵器がレバノン軍に供与されることになっていますが、その相当程度をフランス企業が受注しています。また、これとリンクさせる形で、フランス軍がレバノン軍将兵約7万名に対して軍事訓練を施すとともに、レバノン軍の装備品等のメンテナンスをフランス企業が請け負うことになっています。フランス政府は、同様にレバノンを支援する米国及び英国等と調整しながら兵器類の生産、引渡しを進めていますが、中東情勢が混迷する中、フランス国防関連企業の活況はまだ暫く続きそうです。
しかし、良いことばかりではありません。
ウクライナ情勢を受けてロシアとの間で難航していたミストラル級強襲揚陸艦2隻に関して、5月に入ってから新しい動きがありました。フランス政府は、同艦の引渡しに係る契約を破棄して違約金を支払う方向で調整を始めており、ロシア側もそのラインで検討を進めています。しかし、フランス側が提示した払戻金の額(8億9千万ドル)に対して、ロシアのプーチン大統領は「特段の課徴金を要求するつもりはないが、ロシア政府が支払った(要した)金額は全て返金されるべき」としてフランスの提示額に難色を示しています。具体的には、返済額には既に実施済の乗員(約400名)の訓練費用及びウラジオストックに建設済の港湾施設整備費も含まれるべきであるとして、11億6千万ドルの返金を要求しています。
このところ、中国企業によるフランスへの大規模な社員旅行が話題になっています。フランス政府は、イスラム過激派による風刺画系新聞社への襲撃事件(本年1月)等の影響で観光客が減少することを懸念しており、1万名規模の軍部隊を動員して警戒態勢を維持するとともに、国を挙げて中国からの観光客誘致を進めています。好調なフランス製兵器の対外輸出も、そのようなフランスの懸念を緩和するのに寄与しているようです。